ゲーセン裏話 第九話

記憶の遠くにかすかに光る看板のネオン、夕暮れ時の陽をうけて輝くスタジアムクロス筐体のモニタ(真っ白でプレイ不可)、天井に昼番のフリーターさんが貼り付けたたくさんのバーチャファイター2キャラポスター。

ウエスタンドリーム

細長いお店の横には数台の車が路駐されて、そのうち何台かはお客さんのものだ。自分もそこに車を停めて、店内に入っていく。今日は裏出口から入ったから、正面にはウエスタンドリームのメダル機、右にはメダルマージャンの銀色の筐体が5台並び、左側にはトイレ、その少し奥に事務所の赤い扉がある。

出勤するとまず、事務所のロッカーで制服に着替える。とはいっても、支給されているのは茶色のベストとペイズリー柄のネクタイだけで、Yシャツと黒いパンツは自前。胸に「シェガ」スタッフの金色バッジをつけて完成。

事務所の棚には、店長が港に着いたフェリーのゲームコーナーから引き上げてきた知らないゲーム基板や、コントローラーのパーツが山積みになっている。配線でぐちゃぐちゃ。机の上には、シェガ社の社内誌が置いてあって、社長?のような人が笑ってるが頭髪がどうみてもバーチャルだった。

昼番の顔色の悪いロン毛の人から鍵を受け取って、ベルトに差し込む。雑巾をもって筐体を拭いたり、灰皿を集めて、赤いバケツに吸い殻をまとめたり、椅子を元に戻したあとは、カウンターに置いてあるゲーメストを読んでリオンの技を一生懸命覚える。この、背後から飛びついて相手の顔を両手で 「ィエーーン!」ってやる技、かっこいいんだけど、いままで一回しか決まったことないだよな。他の人はアキラとかで、銀色のボスをボコボコにしてるけど、他人と同じキャラはどうもね。まあ下手なのを認めたくないだけだったかも。

今日も、格闘ゲームが異常にうまいねぇちゃんが来たよ。この人はバーチャファイターもやるけど、ヴァンパイアとかカプコン系がすごく好きなんだよな。いっつも来るから、店員の間では「バーチャねえちゃん」と呼ばれていた。見た目は結構派手な感じで、とてもゲームをやるようには見えない。人は見かけによらないよな。この人とは結構仲良くなったんだけど、今も元気でやってたらいいな。

店長が「スパランド」から帰ってきた。ここも委託管理しているゲーセンで、温泉施設の中によくあったやつだ。想像してほしい。背の小さなサンタクロースが、UFOキャッチャーに補充する謎ぬいぐるみを満杯にした透明のビニール袋を背負っているところを。店員の仕事はそのぬいぐるみを、円形のUFOキャッチャーである「ドリームキャッチャー」に詰め込むことである。その間、店長はコラムスをやったりしてる。売上の回収は空いてる昼間にやるので夜は暇そうだ。早く帰らないかな。ゲームできないじゃん。

19時半、晩飯休憩。お向かいのスーパーで弁当を買う。充実野菜は1本340円の時代。野菜を取らないと健康によくないらしいから頑張る。

店長が帰った。もうひとりのバイトと順番でゲームをやる。今考えたらありえないけど、当時はいろいろゆるくていいのやら悪いのやら。ぱずるだまは面白いなあ、考えた人は天才。バーチャコップも結構すすめるようなった。スターウォーズの3Dのやつは、立派な筐体なのに全然おもしろくない。お金いれてわざわざやらないでしょこれ。

有線ではJ-POPがずっと流れてる。ジュディマリ最高。ミスチルにmc・AT、小沢健二、大黒摩季...ここにいるだけでどんな曲も口ずさめるようになるからいいよね。夜11時半、その有線を「別れのワルツ」チャンネルに切り替えて、まだゲームをやってる数人に早く帰れと無言の圧力をかける。

23時45分、この時点でお客がいなかったら閉店準備をしてもいい、という謎ルールのおかげで、ゲーム筐体への主電源を落とす。「ボフッ、ヒューーーーン」と、静まりかえった店内に別れのワルツが鳴り響くのですぐ止める。ようやく自分の足音が聞こえる。カツカツ。デジタルのビットで作られた世界はしばらく間お休みだ。

ゴミをすて、椅子を片付ける。シェガの金色バッジをロッカーに戻し、服を着替える。鍵はもうひとりが明日も出番なので預ける。セコムの鍵を挿し込んでそそくさと店を出る。

「お疲れ様ー」

ゲーセンのある街の夜が更けていく。

第10話に続く